World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
  VOL.55  オールド上海の石造りサインボード

 「一年一変様、三年大変様」は中国の開発の意気込みを示すスローガンで、我が国は一年毎に変わり、三年すれば大変化するという意味だ。五年ぶりの上海訪問で、私はその変貌ぶりをまざまざと目にした。いたるところに高層のオフィスビルとマンションが林立する様はかつての上海からは創造も出来ないくらいの「大変容」ぶりであった。

 上海にはかつての租界時代の栄華を偲ばせる瀟洒なアールデコ建築が沢山あるが、それらがこの大開発の陰で消えていっては大変だ。外灘(バンド)のウォーターフロントを特徴づける名建築の数々は、対岸の宇宙基地化と見まがう変貌ぶりとは対照的に昔日の面影をしっかりととどめていた。

 私が嬉しかったのは、フランス租界として当時流行の最先端をいった淮海中路のしゃれた雰囲気が今なお健在だったことだ。宿泊した花園飯店のロビーは旧フランス商工会議所を転用したもので、華麗さは失われていない。前面のフランス庭園を囲む鉄柵には一定感覚で一見ショーウィンドウ風の石の造作がしてあり、広告ポスターが納まっていた。当初からその目的で造られたものとすれば、おそらく世界一豪華なサインボードと言えるだろう。オールド上海の稀有な繁栄をかいま見たように思った。

 





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