World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.61  「顔が商品の広告」

 台湾を台北、台中、台南、高雄と移動するバスの旅では沿道のサイン観察で退屈を感じなかった。写真のサインボードをあちこちで見かけたが、スポンサーの名前も広告商品も表示がないので不思議に思った。

 もっとも台湾は、当時総統選挙を間近に控えて選挙戦の真っ最中。このポスターは選挙に関係があるのだろうとは推測したが、真中の顔が新総統の席を争った国民党の連戦氏であるとは気がつかなかった。つまり、広告の商品はこの顔というわけだ。

 党名も氏名もなく「姓台湾人 心台湾人 形台湾人」のコピーは姓も心も顔も台湾人という意味なのか、姓や名前だけ台湾人の対立候補を揶揄したものなのか、この国の政治に疎いものにはちょっと戸惑いさせられる。

 それにしても、サインボードが活躍するこの国の選挙戦は日本と比較にならぬほど派手で、お金をかけるようだ。

 本国を後目に営々と繁栄を築き上げた台湾人は、一方では中国本土の強硬な独立阻止の威嚇に、身の定まらない思いを抱いて今日に至った。将来の決着も容易なことではなかろう。私には仮面をかぶった顔がそのような台湾人の流浪の民としての心のゆらぎを象徴しているように思えてならなかった。

 





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