シュールレアリズムの画家、ダリは「未来の住宅はやわらかくて毛深いものとなるだろう」と予言した。至言であり、またそうあってほしいものだ。
その昔インカ帝国の首都として栄えたペルーのクスコでの宿泊ホテルには感動した。家族的な雰囲気のごく小規模な宿だが。玄関を入った先が一段低い、赤いカーペット敷きのロビースペースになっていて、真っ白に塗られた壁も柱も粘土を捏ね上げたようにうねっている。洞窟に入ったような感じなのだが、高い天井のトップライトから柔らかいい光が降り注ぎ、まるで母親の胎内に潜り込んだような安らぎを覚えた。毛こそ生えていないものの、ダリの言う「毛深い」とはこんな感じの建築をさすのだろう。そのロビー空間を不含め、館内はどこをとってもダリ的、まさにアートそのものなのだ。
ロビーの横の廊下に面して重厚な木彫りのドアが二枚、男性と女性の像からしてトイレとは思ったもののあまりの見事さに、もしかして経営者の個室では、とおそるおそるあけたらやっぱりトイレだった。ドアではあるが、男女の識別を表示しているからにはサインでもあるわけだ。女性の顔が宇宙人のようで面白い。そのプリミティブな表現に「毛深さ」を感じた。
出発の早朝、朝食代わりに出入りの日本人に握らせたおにぎりを手渡され、一同感激した。その心配りがうれしい。