ロンドンのタクシーはブラック・キャブの愛称がついているとおり黒塗り。三十数年前に訪問したときは、そのズングリ・ムックリした形体のせいもあって、いささか無骨に感じた。しかし、今回の訪問ではまったく変わらぬオースチンの車体に懐かしさと愛着を覚えた。色は黒だけでなく、海老茶やグレーのものも目についた。
ビックリしたのは5、6台に1台の割でラッピング広告をしたものが走っていたことである。意固地なまでに保守的なこの国は反面、時としてビックリするほど革新的なことをやってのける。それがまた実に小粋で楽しいデザインに仕上がっているのだ。赤、青、黄色と、とりどりのカラー地色に文字やイラストをセンスよくレイアウトしている。古色然とした街並みが明るくなったような気がした。
このタクシーは車高が高いだけあって乗り降りが楽である。シートは2人がけだが、向かい合って座る点はバスに似ている。ほとんどが個人タクシーだそうだから、広告を出すかどうかも個人の裁量によるのだろうか。もし料金をふっかけたりすれば即、免許取り消しになるとのことで、雲助タクシーは絶対にないそうだ。客への対応は至って親切。
今回のロンドンで唖然としたことは、ビッグベンの時計塔でお馴染みの国会議事堂の眼前に巨大な観覧車が出現していたことと、金融の街シティのロイズが保険会社ビルが誰しも石油コンビナートと見まがうばかりの前衛ぶりのデザインだった。