ルーマニアの北部には古い教会建築が沢山あるが、マラムレシュ地方のシュルデシュティ村にある「木の教会」もその一つ。 突塔の高さが54mありヨーロッパで最も高い木造教会である。その優美な佇まいとともにこの村の印象が忘れられない。 広々とした大地はタンポポで一面黄色に染められ、沿道には白い花を満開につけたプラムとりんごの木が茂っていて夢のように美しい。 バスを降りて教会に向かう小道を歩いていくと、いたいけな子供たちが両手にお盆や籠を頂くように持ってわれわれを迎えた。 その中には水晶をはじめ鉱物図鑑で見憶えのある様々な鉱石が並べられてキラキラ光っていた。この村の近くに鉱石の採掘場があり、子供たちはそれを観光客に売っていたのだ。あどけない天使のこんな歓迎が御伽噺の世界に紛れ込んだような気持ちにさせてくれた。 ふと一軒の農家の庭先に色とりどりの鍋が吊るされている光景が目にとまった。いたずらでもあるまいし、こんなに多くの鍋を吊るすには何か意味があるのだろう。訊いてなるほど「我が家の奥さんは働きものですよ。これこの通り、鍋がこんなにきれいに洗ってありますよ」という意思表示だそうな。 素朴な村の素朴な風習がいまなお生きていることに嬉しくなった。