メキシコシティでの私の目当てはフリーダ・カーロ美術館だった。メキシコを代表する画家ディエゴ・リベラの妻であり、少女時代の不運な事故による後遺症に生涯苦しめられながらも愛と創作に生き抜いた強靭な精神力に敬服する。その彼女が生まれ育った住居が改装され、そのまま美術館になっているのだ。鮮烈な色彩をまとい豊かな造形性を備えた建物と熱帯植物が生い茂る庭は不思議な雰囲気に満ちていて、情熱と苦悩に満ちたフリーダの生前の生活を偲ばせてくれた。
美術館の周りは清閑な高級住宅街で、塀を巡らせた門構えの素晴らしい邸宅が建ち並んでいた。
ことさら私の関心を捉えたのはその門の脇に添えられた三桁の数字である。表札はなく番地を意味する数字だけが例外なく各家に表示されている。しかもその表示の仕方が面白い。手法も大きさも書体も家ごとに違い、極めてアート的なのだ。
立体文字を壁に埋め込んだものもあればがっしりとした木製扉に掘り込んだものあり、針金細工の壁掛けスタイルのものありといった具合。まるで番地がその家に与えられた市民権の印であり、その家の人格表現ででもあるかのように誇らしげなところが興味深い。