ブリュッセルはグラン・プラスと小便小僧だけの都市ではない。そのことを今回のツアーでつくづく思い知った。古い歴史の蓄積としてのデザインがぎっしり詰まった玉手箱であり、現代デザインの先端を走る街でもある。アールヌーヴォーの父、ヴィクトール・オルタを生んだこの地には、街のあちこちにアールヌーヴォーのデザインが息づいている。その一つ一つが素晴らしい。そうかと思うと都市再開発地域に建つガラスを多用した建築がまた目を洗われるような斬新さなのだ。
古い調度や工芸品の店が軒を連ねる骨董街を歩いていたら、突然こんなディスプレーの建物が出現した。張り巡らせた太いロープと荷札のようなパネル。
パネルには「うちは引越しします」と書かれている。だとしたら、この巨大ディスプレーは建物も梱包してもって行きますという意味か。でも、こんな建物が引越しできるわけもない。こんな手の込んだディスプレーで引越しを知らせるというのも合点がいかないし、何が目的なのだろう。私は古い街並みが演じるショーとしてのパフォーマンス性を読み取ったが考えすぎだろうか。古きを大事にするだけではない斬新性がこの国の特性なのだから。