World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.90  癒される場所
癒される場所

「ゆりかごから墓場まで」は福祉国家、イギリスの手厚さを謳った言葉だが、スウェーデンではそれに劣らぬ行政の心遣いを感じた。
 ストックホルムの市営墓地には日本のお墓の陰々粛々とした雰囲気ともアメリカの墓地の晴れやかなピクニックムードとも違う、精神的な高まりと安らぎを感じた。
 広大な土地の広がりに象徴的に配された小丘、哀歓をさそう木立の連なり。その豊か過ぎる舞台設定に対し、配された墓々はどれもつつましく清楚。この国を代表する建築家、アスプルンドが半生をかけて作り上げた葬礼の場はこれ以上望めない死者との対話の空間を形づくっていた。
 文字通り「森の礼拝堂」と名づけられ、杉林の奥深くたたずむ三角屋根の建物。そこにいたる門上の壁面に楕円形のレリーフがあった。レリーフに浮かび上がる建物の中には「今日はあなた 明日は私」と刻まれていた。それは人生のはかなさを示すとともに、現世に生きるものと死者との精神的な絆の深さを言い表したものではなかろうか。
 まだ死を身近に感じる年代ではないが、こんな墓地に葬られれば最高だなとつくづく思った。

 





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