アイルランドで驚いたことが二つある。
観光地の道端で女性がこの国の伝統的なハープを奏でながら歌っていた。ちょっと惹かれるものがあり、売っていたCDを買った。帰国してからじっくり聴いてみたら抑揚のある情感豊かな歌いぶりは素晴らしく、投げ銭を得て観光客相手に聴かせるレベルなんてものではない。この国のミュージシャンの層の厚さとレベルの高さを知った。
アイルランドの店舗サインはヨーロッパ的な凝った突き出しサインはいたって少なく、欄間に書き文字かチャンネル文字を並べたものが大部分だ。ちょっと安直なように思ったが、それが大違い。
欄間が両端のくり型や柱、壁面に繋がってファサード全体が一体となってサインを構成しているのだ。色調も全体で統一している。これは金がかかっている。こんなに立派なサインはほかの国ではお目にかかったことが無い。店舗の見栄えに賭ける店主の心意気が伝わってくる。
昭和初期、書店の町神保町では「看板建築」と名づけられた様式が見られたが、アイルランドの店舗サインは正真正銘の正統派 ”ファサードサイン“と呼びたい。