新富町文化市場 U-mkt

台北の新富町

「新富町」と言ってなじみ深いのは東京都中央区の地名だが、今回は、台北市萬華区にある「新富町」の話である。かく言う私も現地でこの館名サインを見た時、「あれっ、日本語が書いてある!」と、一瞬日本の施設かと錯覚してしまったくらいだ。

「新富町文化市場」は台北のもっとも古い町、萬華の三水街に建てられた。上から見ると中心に庭を持つ馬蹄形のユニークな建物は、日本統治時代に建てられ、公設市場のモデルともなるものであった。ちなみにこの一帯には、今も隣接する東三水街市場に台北の市場風景が残っている。

新富市場は、長い年月の中でいくたびかの凋落があったものの、堅固な建築は壊されず今に至った。近年、市の史跡に指定されたことから、建物の保存と市場文化を伝承するために築後80余年を経た2017年、建築家によって大改修され、現在はギャラリー、オフィス、スクール、カフェ、イベントスペースといった食や地域の文化がテーマの複合的な施設に生まれ変わった。外観はそのまま、内部は昨今の若い世代を意識したカジュアルで簡素、そして明るく、誰もが立ち寄れる地域の新しいシンボルとして復活した。

東京の新富町

ところで、全くの余談ではあるが、最初に表示を見て思い起こした東京の新富町とはいったいどんな街であったのだろう。案外身近なことは知らないものである。新富という響きはどこからともなく三味線の音色が聞こえてくるような艶っぽさも感じるのだが、そうした想像も当たらずとも遠からじ。あまり知られてはいないが、江戸期は一時遊郭があったとか。隣接する埋め立て地「築地」は、当時は市場ではなく外国人居留地で、それらの人々を目当てにしたものだったらしい。

街に歴史あり。一枚の館名板から二つの街の顔を知った。

宮崎 桂

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