ロッテルダムの「パレット」サイン

奇抜な建築デザインが競い合うロッテルダムは、今や現代建築の野外博物館ともいえるほど面白い場所である。色にしろ、形にしろ、特異な建築ばかりで、オランダ国内においても突出している。それは、ロッテルダムが第二次大戦で街全体が消失し、伝統建築が少ない街ならではとも言え、自由であることへの許容範囲が広いオランダという国の一面とも捉えることができるだろう。

そうした突飛な建築がひしめく中に、あたかも時が止まったように古めかしい姿を見せているのがレンガ造りのこの建物である。名前はフェニックスフードファクトリー。大貿易時代にコーヒー豆の倉庫として湾岸に建てられ、今もそのままの姿で残されている。まさにフェニックス(不死鳥)そのものである。

そもそも倉庫というのはリユース素材としては扱いやすく、細かなデザインがされていない分利用価値が大きい。当時のまま残されたのは、外観はもちろんだが内部もほとんど改修されず、がらんとした倉庫そのままの空間となっている。各店舗はだだっ広い中に屋台を並べたように組み込まれ、フードコートの椅子やテーブルなどの家具類も、倉庫由来のビヤ樽やパレットをリユースしたチープな演出だ。

極めつけは、外壁に付けられた店名サインで、よく見ればこちらも荷物の運搬に使われていた木製パレットをそのまま利用している。粗雑な組み方といい、ペイントのラフさ加減といい、まさにこの施設全体のコンセプトや空気感をよく伝えている。こういういい加減さは頭で考えてつくるというより、即興で切ったり貼ったりしながら形作るのだろうから相当感覚的である。リユースや再生は、本来の目的と異なれば異なるほどおもしろい。

宮崎 桂

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