赤と赤のラビリンス

 海外では、ふとした場面で思いがけない光景に出会うことがある。
 ところはオーストラリア・シドニー。 トイレの前に立った私は、一瞬足が止まった。男子も女子も、どちらの入口にも同じ赤いサインが掲げられていたからだ。

 日本では、男女のトイレサインが青と赤に分かれているのはごく一般的である。 フロアマップや誘導サインのピクトグラムが無彩色でも、入口だけはきっちり色分けされている。だからこそ、赤と赤が並んでいる光景には大いに違和感を覚えた。
「どっちがどっち?」
 間違えたら大変だから思わず指さし確認してしまう……。

 日本ではなぜ、男女の色にこうまでこだわるのだろう。
 思えば、生まれた瞬間から色が性別を語り始める。ベビー服の水色とピンク、 幼児の靴の色やランドセルの色。 夫婦茶碗や夫婦箸のペアカラー、寝具のセットなど。男女を「一対」として色で括る文化は、気づけば生活のあちこちに染み込んでいる。

 一方、欧米では、男女を色で区別する習慣は意外と少ない。むしろ色よりも”形”が性別を語るのだ。パンツとスカート、口髭とくちびる……。そもそもピクトグラムというものが色ではなく形態の違いに重心がシドニーの街角で置かれていることを考えれば当然かもしれない。

 もちろん、近年の「性差によるステレオタイプを排除する」という社会的な流れの中では、色分けも形態的記号化も時代に反することであるのはわかる。それでも、ことトイレのサインに関しては、やはり一定のルールがあったほうが安心だ。 入る場所を瞬時に判断できることは、かなり現実的なニーズだから。ただ、この場合のルールは国によって違うのだ。

 そもそも日本人は「決めごと」や「約束事」に忠実な民族だ。規律を守ることで秩序が保たれている面も大きいが、逆に言えば柔軟さに欠け、はみ出したり、他と違うことが許せない。もし日本で赤一色のトイレサインが設置されたら、すぐにクレームが入ることは間違いない。シドニーの赤と赤のトイレサインは、や地域の文化の違いがデザインに表れたわかりやすい例である。そこには、日本とは異なるモノサシが確かに存在している。

 日本の常識は世界の非常識。世界の常識は日本の非常識。いくらグローバル化と言えどもそれぞれの国や地域の習慣は変わらない。色にこだわる日本人、形にこだわる西洋人。互いの文化を認め合い、深掘りするのも悪くない。

宮崎 桂

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