パウル・クレーの矢印

土から出てきたような波型の有機的な形態。この存在感のある建築は、イタリアを代表する建築家レンゾ・ピアノ氏が設計したパウル・クレー・センターで、スイスの首都ベルンにある。

名前の通り近代画家パウル・クレーの美術館で、およそ4000点の作品が所蔵されている。写真右の棟にはクレーに関する研究施設、図書館やアーカイブがあり、中央の棟は美術館で、地下階ではクレーの常設展、地上階では企画展が開催されている。左の棟はコンサートホール、カフェ、そしてワークショップが行われる子供ミュージアムになっている。

クレーは1879年にベルンで音楽家の両親のもとに生まれ、自身も長く音楽を嗜んだ。画家としての活躍はここに記すまでもないが、1921年から1931年までドイツのワイマールとデッサウにあった美術大学、バウハウスの教授としても有名である。さらに詩など文学作品も多く残している。3棟で構成されるパウル・クレー・センターはまさに彼に因んだ施設になっているのだ。

写真からは見えないが、手前の緑地と美術館の間には実は高速道路がある。そこからも視認できる赤いサイン(オブジェ)はクレーが描いた絵がモチーフになっている。丸い円の中の小さな矢印が見えるだろうか。クレーの絵の中にはよく矢印が出てくるのだが、彼が視覚造形の教本ノートに書いた、矢印の形態に関する説明はこうだ。

「矢印は矢印、能動か受動か、それに対する事実的な運動方向性は変えようがない」
もしもこのサインを高速道路から見つけたら、動きのある矢印につられてつい立ち寄りたくなるに違いない、そんな遊び心のあるサインであった。

田嶋佳子

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